私の観た映画のベストの一本とも言えるのが<質屋>です。
その監督シドニールメットはほかにも<十二人の怒れる男>や<狼たちの午後><評決>といった素晴らしい作品を撮っています。
そのルメット監督の<MAKING MOVIES>という著書を読んでいる最中、
レンタルビデオ店でたまたまルメット監督の<ウィズ>を発見し迷わず借りました。
<ウィズ>はルメット監督にとっては異色のミュージカルで、ダイアナロスとマイケルジャクソンの主演のほか出演者は全て黒人です。
ニューヨークを舞台に<オズの魔法使>をリメイクした作品ですが、が、が、が、ガッカリの出来栄えです。
オールロケで行くべきところ、中途半端にスタジオと屋外での撮影になっています。
また特撮も活かし切れず何の効果も発揮しません。
ルメットにはミュージカルも特撮もムリなのか?
監督本人はこの作品の完成時に、この出来で良しと納得したのだろうか?
そんな疑問で胸が落ち着きません。
その後再び著書を読みはじめ数ページすると<ウィズ>について触れていました。
それはまるで、私の疑問に答えるかのように・・・
この作品は諸事情によって、当初の監督の思惑であるオールロケによる撮影が徐々に挫折していき、自分の意図とは離れどんどんとスタジオ撮影が増えていった行程が語られ。
特撮に対する知識の不足から己のイマジネーションを形に出来ず(今なら何でも可能な特撮技術も、この頃はまだ未成熟だったので)
撮影中、当初のコンセプトが次々と崩れていく様がつづられていました。
しかし誰のせいにすることもなく自分を責め、責任は全て自分にあると潔く失敗を認めています。
私が不満に思い、疑問に思った部分を、監督は著書の中で全て答えてくれていたので、私の胸のつかえも下りました。
ルメットは湯水のように大金を制作費につぎ込む監督とは違い。常に予算や効率までも考え、その中から最大限の効果を模索する、まさしく職人的監督でありクリエーターです。(日本で言えば新藤兼人、今村昌平のよう)
これほどのキャリアを持つ名匠であっても、挫折し苦悩している姿に感銘しました。
またこの著書の中で『生涯2本だけ金のために引き受けた作品がある』と告白していてルメットファンとしては非常に興味深かったです。
また『映画製作で小さな決定は、何一つないのだ』という言葉は、誠実で優れた監督ならではの言葉と重く感じました。
最後に<質屋>について触れておきます。
非常に地味な作品です。
製作は1964年でありながら日本公開は4年後になりました。
主役のロッドスタイガーが<夜の大捜査線>でスペンサートレイシー、ポールニューマン、ダスティンホフマン、ウォーレンビューティといった強敵を退けオスカーを獲得したのをキッカケに、やっと日本で公開されました。
もしロッドスタイガーがオスカーを手にしていなかったら私は<質屋>に出会う事がなかったかもしれません。
地味な映画<質屋>ですが、初めての試みを2つしています。
ひとつはクィンシージョーンズを音楽監督に迎い入れたこと。
彼はこの映画をきっかけに、その後度々映画音楽を手がけるようになり前述の<夜の大捜査線>も担当しました。もう一つはサブリミナル効果の手法を初めてこの映画で使ったこと。(しかも非常に効果的に)
ただし日本公開が遅れた4年の空白の間にその手法は数多くの作品に使われた為、残念なことに日本公開当時は新しい手法としての評価と新鮮さはなくなっていました。
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